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宇都宮地方裁判所 平成9年(行ウ)10号 判決 1998年7月23日

栃木県大田原市城山一丁目五番二〇号

原告

有限会社前田酒販

右代表者代表取締役

野村隆

栃木県大田原市紫塚一丁目五番五四号

被告

大田原税務署長 加藤勝次

右指定代理人

小暮輝信

須藤哲右

田村利郎

山本廣美

田村一美

谷田部浩

黒尾眞澄

宇田川祐一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対して平成六年六月二二日付けでした次の各処分をいずれも取り消す。

一  原告の平成二年六月一日から平成三年五月三一日までの事業年度に係る法人税の更正のうち、納付すべき税額三万一三〇〇円を超える部分及び無申告加算税賦課決定

二  原告の平成四年六月一日から平成五年五月三一日までの事業年度に係る法人税の更正及び無申告加算税賦課決定

第二事案の概要

本件は、原告が、法人税の確定申告において、当該事業年度より前に発生し、確定した売上原価、販売費、一般管理費、貸倒損失及び支払利息について、発生当時の会計能力の低さから会計帳簿に計上漏れとなっていたものを、弁済した各事業年度に前期損益修正損として計上し、これらを計上した各事業年度の損金の額に算入して所得金額を計算し、これを申告したところ、被告が、右前期損益修正損を損金の額に算入することは認められないとして、本件各更正及び無申告加算税の賦課決定処分(以下これらの処分を総称して「本件各処分」という。)を行ったことから、原告が、被告に対し、本件各処分の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  本件各処分の経緯

原告の平成二年六月一日から平成三年五月三一日までの事業年度(以下「平成三年五月期」という。)及び平成四年六月一日から平成五年五月三一日までの事業年度(以下「平成五年五月期」といい、両事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)に係る法人税について、原告が被告に対してした確定申告、被告がした更正及び無申告加算税賦課決定並びに原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表一及び二に記載のとおりである。

2  原告は、平成三年五月期において、三億〇一三六万九九二三円を、平成五年五月期において、二億二五六二万五〇四四円を、それぞれ前期損益修正損として、本件各事業年度の確定申告における所得の計算上、損金に算入した。

右前期損益修正損は、本件各事業年度より前に発生した売上原価、販売費、一般管理費、貸倒損失及び支払利息で、原告の会計能力が不足していた結果、計上漏れとなっていた簿外債務を、原告が本件各事業年度において支払った金額である。

二  本件各処分の適法性に関する被告の主張

1  平成三年五月期の更正の根拠

(一) 平成三年五月期の所得金額

原告の平成三年五月期の所得金額は、二億七五六四万三二八八円であり、その計算の根拠は、次のとおりである。

なお、以下において、△印を付した金額は損失の金額を示す。

<省略>

右表の各項目の内容は、次のとおりである。

(1) 申告所得金額 △ 二七〇万〇一四六円

右金額は、原告の平成三年五月期の法人税確定申告に係る所得金額である(当事者間に争いがない。)。

(2) 前期損益修正損の損金不算入額 三億〇一三六万九九二三円

原告が前期損益修正損として損金に算入した三億〇一三六万九九二三円については、後記(4)に記載した利子割引料を除き、使途の確認ができず、業務との関連性の有無及び債務の確定が明らかでないから、損金に算入することはできない。

(3) 交際費の損金不算入額 二八一万二一五八円

原告は、交際費として六八一万二一五八円を損金に算入したが、資本の金額が一〇〇〇万円以下である法人については、交際費の額が、四〇〇万円を超える部分の金額は損金に算入しないとされており(平成六年改正前の租税特別措置法六二条)、原告が交際費として損金に算入した六八一万二一五八円のうち、四〇〇万円を超える二八一万二一五八円については、損金に算入することはできない(当事者間に争いがない。)。

(4) 利子割引料の損金算入額 二五八三万八六四七円

原告が前期損益修正損として損金に算入した額のうち、平成三年五月期の利息として認められる額及び金融機関を調査したことにより把握した平成三年五月期の未払利息について、損金に算入したものであり、内訳は次のとおりである(当事者間に争いがない。)。

<省略>

(5) 原告の所得金額 二億七五六四万三二八八円

右金額は、前記(1)に、(2)及び(3)を加算し、(4)を減じた金額である。

(二) 平成三年五月期の納付すべき法人税額 一億〇二六〇万五〇〇〇円

(1) 原告の所得金額に対する法人税額 一億〇二六〇万六一二五円

原告の平成三年五月期の所得金額は、前記(一)(5)のとおり二億七五六四万三二八八円であり、法人税法六六条一項及び二項(ただし、昭和六三年法律第一〇九号による改正後のもの。)により、八〇〇万円以下の部分については一〇〇分の二八の税率を、八〇〇万円を超える二億六七六四万三〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により千円未満の端数を切り捨てた後のもの、以下、平成五年五月期についても同じ。)については一〇〇分の三七・五の税率をそれぞれ乗じて算出した額を合計した一億〇二六〇万六一二五円である。

(2) 原告の納付すべき法人税額 一億〇二六〇万五〇〇〇円

原告の平成三年五月期の納付すべき法人税額は、前記(1)の所得金額に対する法人税額一億〇二六〇万六一二五円から法人税法六八条一項及び同法施行令一四〇条の二の規定により、利子・配当等の収入について既に源泉徴収されていた税額一九万五三五七円を控除した一億〇二四一万円(国税通則法一一九条一項の規定により百円未満の端数を切り捨てた後のもの、以下、平成五年五月期についても同じ。)に、確定申告時に還付した税額一九万五三五七円を加算した一億〇二六〇万五〇〇〇円(国税通則法一一九条一項の規定により百円未満の端数を切り捨てた後のもの、以下、平成五年五月期についても同じ。)である。

2  平成五年五月期の更正の根拠

(一) 平成五年五月期の所得金額

原告の平成五年五月期の所得金額は、一億八九六七万二三〇二円であり、その計算の根拠は、次のとおりである。

<省略>

右表の各項目の内容は、次のとおりである。

(1) 申告所得金額 △ 六三五万二五五二円

右金額は、原告の平成五年五月期の法人税確定申告に係る所得金額である(当事者間に争いがない。)。

(2) 前期損益修正損の損金不算入額 二億二五六二万五〇四四円

原告が前期損益修正損として損金に算入した二億二五六二万五〇四四円については、前記1(一)(2)で述べたとおり損金に算入することはできない。

(3) 利子割引料の損金算入額 二九六〇万〇一九〇円

原告が前期損益修正損として損金に算入した額のうち、平成五年五月期の利息として認められる額及び金融機関を調査したことにより把握した平成五年五月期の未払い利息について、損金に算入したものであり、内訳は次のとおりである(当事者間に争いがない。)。

<省略>

(4) 原告の所得金額 一億八九六七万二三〇二円

右金額は、前記(1)に、(2)を加算し、(3)を減じた金額である。

(二) 平成五年五月期の納付すべき法人税額 七〇二九万二〇〇〇円

(1) 原告の所得金額に対する法人税額 七〇三六万七〇〇〇円

原告の平成五年五月期の所得金額は、前記(一)(4)のとおり一億八九六七万二三〇二円であり、法人税法六六条一項及び二項(ただし、昭和六三年法律第一〇九号による改正後のもの。)により、八〇〇万円以下の部分については一〇〇分の二八の税率を、八〇〇万円を超える一億八一六七万二〇〇〇円については一〇〇分の三七・五の税率をそれぞれ乗じて算出した額を合計した七〇三六万七〇〇〇円である。

(2) 原告の納付すべき法人税額 七〇二九万二〇〇〇円

原告の平成五年五月期の納付すべき法人税額は、前記(1)の所得金額に対する法人税額七〇三六万七〇〇〇円から法人税法六八条一項及び同法施行令一四〇条の二の規定により、利子・配当等の収入について既に源泉徴収されていた税額七万四九六四円を控除した七〇二九万二〇〇〇円である。

3  本件各更正の適法性

原告が平成三年五月期及び平成五年五月期において、納付すべき法人税額は、前記1(二)(2)及び2(二)(2)のとおりであるところ、本件各更正において本件各事業年度について納付すべきとされた法人税額は、別表一及び二の「更正・賦課決定」欄の「納付すべき税額」に記載のとおりであって、いずれも右金額の範囲内であるから、本件各更正は、いずれも適法である。

4  本件各賦課決定処分の根拠

原告に係る平成三年五月期及び平成五年五月期の無申告加算税は、前記1(二)(2)及び2(二)(2)の納付すべき法人税額(ただし、国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に、国税通則法六六条(昭和六二年法律第九六号による改正後のもの。)の規定により一〇〇分の一五の割合を乗じて算出したものであり、原告が納付すべき金額はそれぞれ、

平成三年五月期 一五三九万〇〇〇〇円

平成五年五月期 一〇五四万三五〇〇円

である。

5  本件各賦課決定処分の適法性

本件各賦課決定処分の額は、別表一及び二の「更正・賦課決定」欄の「無申告加算税」に記載のとおりであって、いずれも前記4記載の原告が納付すべき各金額の範囲内であるから、本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

三  争点

本件各事業年度より前に発生したが、発生した事業年度の会計帳簿に計上漏れとなっていたものを、弁済した各事業年度に前期損益修正損として計上し、これらを計上した各事業年度の損金の額に算入するという会計処理が、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとして、是認し得るか否か。

四  争点に関する原告の主張

1  法人税法二二条四項は、損金の額に算入すべき金額として同条三項各号が掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するものとしている。

費用収益対応の原則は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準の一内容をなすものであるが、この解釈としては、企業の継続性に鑑み、企業の生涯を通じて費用と収益が対応していることと解すべきであり、当該事業年度に限っての費用収益対応と考えるべきではない。したがって、本来負担すべき事業年度の費用が当該事業年度以降に発覚した場合、その発覚した事業年度の費用として計上することも費用収益対応の原則から許容されるものと解すべきである。

2  前期損益修正損については、各企業の会計能力に格差があり、会計能力の低い企業は費用計算を誤る危険性があることから、必然的に発生するものというべきである。

また、企業会計原則及び企業会計原則注解並びに財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「財務諸表等規則」という。)及び同規則取扱要領等は、前期損益修正損の内容について例示しているにすぎず、すべてを列挙しているものではない。

むしろ、前期損益修正損を計上すべき事業年度について、法人税法に特別の規定がない以上、前期損益修正損は、内容のいかんを問わず、すべてこれを計上した事業年度の損金に算入されると解すべきである。

したがって、原告主張の前期損益修正損のように、右の例示には該当しないが、会計能力の不足から、発生した事業年度に計上漏れとなった費用等で、その後の事業年度に計上したものについては、法人税法二二条三項三号に規定する「当該事業年度の損失の額」に該当するものとして、本件各事業年度の損金に算入されるべきである。

五  争点に関する被告の主張

1  法人税法において、所得金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とされており(同法二二条一項)、損金に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、同条三項一号ないし三号に掲げる額とされている。そして、右各号により、損金の額に算入すべき金額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算される(同条四項)。

また、同条三項各号がいずれも「当該事業年度の」と規定していること、同項二号が「当該事業年度終了の日までに債務の確定していないものを除く」と規定していることからすると、同項各号は、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額について、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準である発生主義、費用収益対応の原則、期間対応の原則、債務確定基準により算出するものとしている。

2  前期損益修正損とは、一般的に、前期以前の損失を当期において計上する場合に、損益計算書に表示される勘定科目で修正することをいう。

企業会計原則は、前期損益修正損を特別損失として表示することとし、企業会計原則注解によると、前期損益修正損の内容として、<1>過年度における引当金の不足修正額、<2>過年度における減価償却費の不足修正額、<3>過年度におけるたな卸し資産評価の訂正額があげられている。

また、財務諸表等規則九五条の五は、前期損益修正損を特別損失として掲記することとし、同規則取扱要領によると、前期損益修正損としては、<4>減価償却累計額の修正と認められる額、<5>引当金の追加計上額、<6>前期以前に計上された費用の訂正に相当する額があげられている。

前期損益修正損の内容を前記<1>ないし<3>、又は<4>ないし<6>のように限定することなく、前期損益修正損として損益計算書に計上された金額が、内容のいかんを問わず、すべて当該計上された事業年度の損金になるとすると、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準たる発生主義、費用収益対応の原則、期間対応の原則、債務確定基準等に照らし、当該計上された事業年度の損金としておよそ認める余地がないものまで、損金とすることになり、法人税法二二条三項、四項に反することは明らかである。

前期以前の期間の収益に対応する原価でありながら、収益に対応する事業年度に計上し忘れたことによる原価や、前期以前の期間の収益獲得のために対応する費用及び損失でありながら、収益獲得のために対応する事業年度に計上し忘れたことによる費用及び損失は、更正の請求(国税通則法二三条)の制度に基づいて行政処分の発動を求めるべきものであって、随時、前期損益修正損として損金に算入し得るものではない。

第三当裁判所の判断

一  法人税法においては、法人の課税所得は法人の期間損益を対象としているが、所得の金額の計算については、同法二二条において、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする(一項)、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする(二項)、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る原価の額(三項一号)、当該事業年度の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了までの日までに債務の確定しないものを除く。)の額(同項二号)、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの(同項三号)と定めている。

そして、右金額の計算原理ないし計算方法については、同条二項及び三項各号に規定する当該事業年度の収益並びに原価、費用及び損失の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする(四項)と規定するに止めている。これは、法人所得の計算については、法人税法自体で網羅的に定めることをせず、原則として、企業利益の算定の技術である企業会計に準拠して行うということを明らかにしたものであり、具体的には、企業が会計処理において実際に用いている基準ないし慣行のうち、一般に公正妥当と認められないもののみを課税所得金額の計算上認めないこととし、法令に別段の定めのあるものを除いては、原則として企業の会計処理を尊重するという基本方針を示したものである。

したがって、ある収益や損失をどの事業年度に計上すべきかについては、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきことになるが、この「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」自体が、一義的に明らかではないことから、いかなる会計処理であれば一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するとして是認できるかが問題となる。

二  証拠(甲第六ないし第八号証)によれば、原告は、昭和六〇年代に原告が倒産した当時に発生し、遅くとも平成三年五月期前には確定した売上原価、販売費、一般管理費、貸倒損失及び支払利息について、その当時の会計能力の低さから、資産及び負債の把握が不完全で会計帳簿上計上漏れになっていたため、これらを弁済した本件各事業年度において、前期損益修正損として計上し、これらを損金の額に算入して所得金額を計算し、法人税の申告を行ったことが認められる。

原告は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準の一内容である費用収益対応の原則について、企業の継続性に鑑みれば、企業の生涯を通じて費用と収益が対応していることと解すべきであり、当該事業年度に限っての費用収益対応と考えるべきではないから、前期以前に発生した費用等であっても、前期損益修正損として法人税法二二条三項三号の当該事業年度の損失に該当し、損金の額に算入し得るのであって、原告が行った会計処理も費用収益対応の原則を充たしており、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合すると主張するので、以下検討する。

1  企業会計原則は、企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められたところを要約したものとされているから、企業会計原則に従った会計処理は、原則として一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものということができる。

企業会計原則によれば、費用を「その発生した期間に正しく割当てられるように処理」すべきとして、発生主義による費用認識を定めている(企業会計原則・第二損益計算書原則一A)。また、企業会計においては、各期間における損益を正確に計算、確定することが課題となっているため、収益とそれを生み出すのに要した費用とは、同一の会計年度に計上されなければならず、企業会計原則は、「一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用」を損益計算書に記載して経営成績を表示させることとしており(企業会計原則・第二損益計算書原則一)、費用と収益との間に、個別的対応ないしは期間的対応があることを求めている(いわゆる費用収益対応の原則、期間対応の原則)。

2  右にいう期間損益の計算において、発生主義による費用認識を採る以上、費用等の計上にあたって予測の要素が伴うこととなり、実際に支出した費用等との間には、不可避的に誤差が生じることになるところ、この誤差は、前期損益計算における費用等の修正として、後の期間(当期)の費用として計上せざるを得ない。これが前期損益修正であって、この誤差の額に相当する損益部分は、特別損益(期間外損益)を構成する。

したがって、前期損益修正損とは、前期において予測に基づいて一旦計上したものの、当期に確定的に発生ないし確認された金額との間に生じた差額を特別損失として計上し、修正を行うものということになる。

企業会計原則は、前期損益修正損について、これを特別損失の一項目として表示する旨を規定し(企業会計原則・第二損益計算書原則六)、企業会計原則注解一二は、前期損益修正損の内容として、<1>過年度における引当金の不足修正額、<2>過年度における減価償却費の不足修正額、<3>過年度におけるたな卸し資産評価の訂正額をあげている。

また、企業会計原則に基づく財務諸表の記載形式を規定した財務諸表等規則は、九五条の五において、前期損益修正損を特別損失の一項目として掲記することとし、財務諸表等規則取扱要領は、前期損益修正損として、<4>減価償却累計額の修正と認められる額、<5>引当金の追加計上額、<6>前期以前に計上された費用の訂正に相当する額をあげている。

さらに、株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び付属明細書に関する規則四二条は、前期損益修正損について、特別損益の部に、内容を示す適当な名称を付した科目を設けて記載しなければならないとしている。

3  ところが、原告が主張する前期以前に発生した計上漏れの費用等の額というのは、発生時に計上すらしていなかった費用等について、新たに計上するものであって、前記<1>ないし<3>、又は<4>ないし<6>のいずれにも該当しないのであり、このことは、原告自身の認めるところでもある。

もっとも、法人税法二二条四項は、前述のとおり、企業が会計処理において実際に用いている基準ないし慣行のうち、一般に公正妥当と認められないもののみを課税所得金額の計算上認めないこととし、法令に別段の定めのあるものを除いては、原則として企業の会計処理を尊重するという基本方針を定めたものであって、現に法人が行った計算が、同法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限りは、課税所得の計算上もこれを是認することとしたものであるから、原告が行った計算が、企業会計原則等に合致しない場合であっても、それが一般に公正妥当と認められない場合でなければ、直ちに排斥することはできない。

4  しかしながら、原告が行った計算は、前期以前に発生した計上漏れの費用等について、その後の事業年度に前期損益修正損として計上して損金に算入するというものであるから、前述の前期損益修正損の趣旨、内容に合致しないばかりか、企業会計原則で定める発生主義、費用収益対応の原則及び期間対応の原則と明らかに背反するものといわざるを得ない。

この点、原告は、費用収益対応の原則について、企業の生涯を通じて費用と収益が対応していることと解すべきであり、当該事業年度に限っての費用収益対応と考えるべきではないと主張するが、経済活動を継続的に行う企業の利益を、人為的に適当な期間に区切って、会計期間の制度を設定し、この期間に対応する費用と収益を比較して、期間損益計算を行うことが近代会計処理の根本原則であり、法人税法は、この考え方を受けて、企業の継続性を前提として、法人の事業年度を設立から解散までの期間とするのではなく、最長一年の事業年度に区切り、その期間ごとの益金と損金によって所得を計算し、これに課税することとしているのである(同法五条、一三条、二一条、二二条)。そして、企業所得の期間計算の例外として、一定の場合に限って欠損金の繰越し及び操戻しを認める旨を規定している(同法五七条ないし五九条、八一条)。

以上によれば、原告の主張は、近代会計処理の根本原則及び法人税法の規定に背反する独自の見解に過ぎず、採用し得ないことは明らかである。

したがって、原告が行った会計処理を、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものと認めることはできない。

5  なお、企業会計に関する包括的な基本原則である一般原則によれば、信頼に足りる会計報告には、会計処理過程における恣意性の排除が必須不可欠であり、企業の財務政策的効果を企図した利益操作を許すべきではないとされている(真実性の原則・維続性の原則)。

ところが、原告が主張する費用収益対応の原則の解釈によれば、納税義務者が、事業年度を跨いで自由に損金として計上する事業年度を選択しうることにもなり、まさに恣意の介入する余地を認める会計処理というべきであるから、これが企業会計の一般原則や法人税法の要請に反することは明らかであって、この見地からも、原告の主張は、到底採り得ない解釈といわざるを得ない。

6  本来、原告の主張する場合のように、発生した費用等について計上漏れがあり、納付すべき税額を過大に申告していたことが判明したのであれば、更正の請求をして(国税通則法二三条)、行政処分の発動を求めることが予定されている。むしろ、法が特に更正の請求の手続を設けた趣旨に鑑みれば、申告が過大であった場合には、原則として、更正の請求以外の他の救済手段によることは許さず、更正の請求の手続によらなければならないとしているものと解すべきである(更正請求の原則的排他性)。

確かに、更正の請求には期間制限があって(国税通則法七〇条一項)、無制限に申告内容の変更が認められるものではないが、それは、申告納税制度を採用し、毎年大量かつ迅速な事務処理が求められる結果として、課税法律関係の早期確定の要請を優先させるという政策判断の現われとしてやむを得ないことである。

原告が主張するように、前期以前に発生した費用等で計上漏れとなっていた金額について、更正の請求をなし得る期間を徒過した後にまで、前期損益修正損として計上しさえすれば、計上した事業年度の損金に算入し得るとすると、更正請求の原則的排他性にも、更正の請求をなし得る期間を限定した前述の趣旨にも反することになり、この観点からも、原告の主張は是認できない。

三  以上のとおりであるから、原告主張の前期損益修正損の額を、本件各事業年度の損金に算入することはできないところ、原告は、この点を除く被告の所得金額の計算については明らかに争わないから、原告の本件各事業年度に係る所得金額は、被告主張のとおりになることが認められる。

また、原告が本件各事業年度に係る法人税の確定申告書を申告期限内に提出しなかったことは争いがなく、被告は、国税通則法六六条一項(昭和六二年法律第九六号による改正後のもの。)により、本件各更正により納付すべきこととなった税額に基づいて算出した金額の無申告加算税を賦課決定したものである。

本件各処分において納付すべきとされた金額は、いずれも被告主張の納付すべき税額の範囲内であるから、本件各処分はいずれも適法であって、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴訟七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 増山宏 裁判官 林正宏 裁判官 男澤聡子)

別表一

平成二年六月一日から平成三年五月三一日までの事業年度

<省略>

別表二

平成四年六月一日から平成五年五月三一日までの事業年度

<省略>

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